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ハーレクインもどき −番外編(7)−
 エルフリーデが、ミッターマイヤー以外で初めてロイエンタールの顔に拳ならぬ掌を入れることに成功する戦果を上げて中庭に戻ると、数名の級友達が寄って来て、リボンがかけられた小さな長方形の包みを手渡された。
「これ、私達からのプレゼントよ。今夜のお礼に差し上げようと思って、皆で選んだの。開けてみて」
 一人の級友が代表してそう促すと、エルフリーデは包みを解いた。
 箱を開けると、入っていたのは、丸みを帯びた可愛らしいフォルムの、パールホワイト色の携帯端末だった。星やハート型のラインストーンでデコレーションが施され、サイドには「E・v・K・R」のイニシャルシールが貼られている。
「デコデザインは私なの」
 もう一人の少女が、少し得意そうに言い添える。
「あ、ありがとう・・・」
 エルフリーデは、少し戸惑いを感じながらも、友人達のプレゼントを物珍しそうに、しげしげと眺めた。旧社会では、女性、特に身分の高い女性がこのようなものを持つことは、はしたないとされる風潮が根強く、個人の携帯端末は専ら男性用か、召使が主人に代わって連絡を行う為に与えられている業務用のものだった。それが、ローエングラム王朝の改革開放路線により、女性を情報から遮断し、家に閉じ込めておく為に都合のよい習慣が悉く見直されると、旧秩序が崩壊した帝国内の若年富裕層の女性の間で、自分用の携帯を持つのが流行となった。その背景には、勿論、目ざといフェザーン資本のメーカーが、女性向けデザインの端末を一斉に発売開始したことも寄与している。エルフリーデが貰ったものも、そういった会社が先月発売した最新モデルだった。
「クラスメイト全員のアドレスは入れておいたわ。後はエルフィーが自分で、旦那様やご親族の方なんかとメアド交換して使ってね。これからは、貴婦人も携帯くらいもたなきゃ」
 一番手馴れている友人が、そう言って端末の基本操作を教えてくれた。
 あの男と、こんなもので仲良く連絡を取り合うなんて有り得ないけどと思いながらも、エルフリーデは、生まれて初めて手にする自分専用の小さな機械に好奇心を溢れさせた。
「単に相手と話せるだけじゃないのよ。新王朝の開放政策のおかげで、色々なコンテンツが閲覧できるの。ゲームとかもできるのよ」
 そう説明されると、突然ディスプレイが、紫と黒と金色を基調にしたアンティークな画面に変わった。今、彼女達の間で一番流行っている、フェザーンの通信会社が発信する無料コンテンツの帝国公用語版とのことだ。
『運命の館』というベタな名前の占いサイトで、「12星座と血液型とイニシャルで占うあなたの愛と性」という、これまたベタなサブタイトルまでついている。
「ここに自分の誕生日と血液型とイニシャルを入れておくと、基本性格や自分の適正が判るし、その日の運勢なんかも毎日診断できるのよ。あと、ここに相手のデータを入力すると、その人との相性度も診断できるの」
 そう言って説明する級友の脇から、また別の友人が
「これで診断すると、エルフィーとロイエンタール元帥は、総合相性度99.999%の数億組に一組の最高相性なのよ。やっぱり運命だわぁ・・・」
 と言って胸の前で両手を合わせてうるうるし始めた。
 それを聞きながら、エルフリーデは、不信そうに眉を顰める。
 自分とあの男のどこが相性がいいと言うのか?
「12星座って、古代の地球を基点としたものでしょう? オーディンで生まれた私達には、最初から当てはまらないじゃない。それに血液型に性格や能力を決める科学的根拠はないって聞いたことがあるわ。そんな占いなんて全部出鱈目よ!」
 強い口調で否定するエルフリーデに、友人達は一斉に反論する。
「エルフィー、あなたって夢がないのね・・・でも、現実主義のリヒテンラーデ一族らしいわ」
「夢なんて不確実なものに頼るなんて、非現実的だわ」
「どうせ私は、夢想家おバカのブラウンシュバイク一族ですよーだ」
「占い通りに恋愛や結婚ができて幸せになれるなら、誰も不幸になる人はいないじゃない」
「まあ、それはそうだけど・・・でも、この世には、まだまだ科学では解明できない神秘があるのよ。特に男女の仲は」
 知った風な口を叩く友人に、エルフリーデが更に反論を試みようとした時、別の友人が、自分の端末の画面を指して見せた。
「ねえねえ、それより見て。これ、私とミュラー提督の相性なの」
 思わず画面を覗き込むと、一番上に大きく「総合相性度88%」と太字で表示されている。その下には、何やら色々と診断結果が書かれていた。
「このすぐ下のが、心(精神)の相性度で、その下が、体(セックス)・・・きゃっ、の相性なの」
 そう言って、頬を染めながら嬉しそうに話す友人を前に、エルフリーデもこれ以上否定的なことを言う気力が失せてしまった。その友人のディスプレイを見ると、心の相性度が95%、体の相性が78%とどちらも良好で、総合すると88%という結果になるのだそうだ。


 温和で誠実、同性からも異性からも人望があるのに、なぜか女性になかなか縁のない彼。もしかしたら、過去の傷を引き摺っているのかもしれません。そんな彼の心の傷を癒す存在になれる天真爛漫なあなたは、切っ掛けさえあれば、結婚まで漕ぎ着ける可能性大。 セックスは淡白ですが、相手を気遣う優しい愛撫をしてくれるので、若いあなたとの相性もまずますです。
 攻略のポイントは、共通の趣味を持つことで、年齢差のギャップを克服すること。
 

 画面上の赤裸々な文字が、思春期の少女達を更なる妄想の世界へ誘う。
「私は、ファーレンハイト提督と、体の相性はいいけど、心の方がイマイチで、総合だと72%で微妙なの。彼、『見かけによらず意外と性豪』なんですって。うふっ」
「私はビッテンフェルト提督と、体の相性度が低いの。彼の旺盛な精力に、私が未熟で付いていけないんですって。でも、気質が似ていて、心の相性は抜群なの」
 少女達は、完全にあっちの世界で、それぞれの思い人と勝手に恋愛をはじめている。
 同じ頃、中庭に戻ったロイエンタールは、トリスタンのトピアリーの前に立たされ、他の令嬢達の被写体になってやっていた。
『・・・ったく。何で俺ともあろうものが、こんなことを・・・』
 と、憤りつつも律儀に撮られてやってるロイエンタールだった。
 彼にしてみれば、これ以上「あの女」の機嫌が悪くなって、夜会がぶち壊しにでもなれば、皇帝の行幸も仰いでいる以上、彼の帝国元帥としての権威に傷がつく。・・・と、心の中でなぜか言い訳しているのだった。
 一通り撮影が終わると、令嬢達は互いの写真を見せ合いながら、囁きあったり小さく嬌声を上げたりしてそれぞれ仲のいいグループ毎に盛り上がっている。
 まったく、女って奴は、どうしてこうも下らんことに労力を費やせるのか、気が知れない。
 と、毒づきつつも、ざっと周囲を見渡して、ロイエンタールはつくづく思った。
 これほど大勢同じ年頃の娘が集まっているにも関わらず、やはり自分の妻となった女の美しさと可愛らしさは、群を抜いているではないか。美女など見慣れているはずのロイエンタールが本気でそう思えることが誇らしく悦びに感じていることが、自分でも不思議だった。
 彼が親バカならぬ夫バカぶりに浸っていると、午後6時半を回ったのを合図に、続々と招待客が集まってきた。
 最初に現れたのは、ロイエンタールとミッターマイヤーの(ローエングラム王朝では)比較的年配の高級幕僚達だった。
「本日は、このような場にお招き頂き、誠に光栄の至りであります」
 無骨を絵に描いたようなベルゲングリューンが代表する形で謝意を述べると、ロイエンタールは、今宵は無礼講だから、堅苦しくならずに酒と料理を楽しんでいけと鷹揚に応じた。ベルゲングリューンは、一礼するとその場を離れ、ウエイターからグラスを受取ると、親友のビューローと年代ものの白ワインを酌み交わした。
「ねえ、エルフィー、あの素敵な方はどなた?」
 いつの間にか別の級友達がエルフリーデを取り囲んでいて、小声で囁いた。
「え? どの方?」
「ほら、あちらの髭の・・・・風格があってステキ」
「私は、もう一人の黒髪のオールバックの方が好みだわ。いかにもアクが強そうで」
 エルフリーデは、少し驚きながらもこの一週間で詰め込んだデータを頭の中から引き出す作業を行った。
「髭の方は、ベルゲングリューン大将で、あの男・・いえ、主人の高級幕僚の一人よ。もう一人は、ビューロー大将と言って、確か、ミッターマイヤー元帥の幕僚だわ。お二人とも優秀な軍人で、元帥方や皇帝陛下の信頼も篤いそうよ」
 少し前のエルフリーデなら、この後に、ビューローは下級貴族出身で、ベルゲングリューンは平民であることを付け加えたことだろうが、既に彼女達が旧体制の身分などに拘っていないことを知っていたので、言及しなかった。
 貴族女学院を次席卒業しただけに、エルフリーデは記憶力には自信があった。歴史年表や化学記号の暗記テストでは、常に学年でベスト3に入っていた。
「でも、お二人共、年齢は39歳で、私たちのお父様やお母様と同年代だわ。今日はお一人で見えてるみたいだけど、きっと奥様がいらっしゃると思うわ」
「そう・・・」
 残念そうな友人達に、エルフリーデは、これから本命の提督達や皇帝も来るし、若手の将官もたくさん招待しているからと励ました。
 それを見計らったように、次に現れたのは、ご令嬢達同様にこの夜会に大いなる期待(下心)を抱いているバイエルラインやトゥルナイゼン、グリルパルツァー、クナップシュタイン等だった。
『△の人達だわ』
 エルフリーデは、そう思いながらも、完璧なホステス役を演じきるべく、最大限の社交辞令で彼等を迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。今宵はどうぞ楽しんでらして下さいね。私の友人達も、帝国の未来を担う将来有望な若手提督方とお会いできるのを、皆楽しみにしておりましてよ」
 極上の笑顔を作って、美しい右手を差し出すと、△男達は次々と手を取って挨拶を述べた。
『ほらな。やっぱり俺目的のご令嬢方が大勢いるんだな』(BY トゥルナイゼン)
 何かを激しく誤解している。
『伯爵夫人、やっぱ、近くで見るとほんとにキレイだなぁ・・・ああ・・・あんな子と毎日・・・』(BY クナップシュタイン)
 激しい妄想に駆り立てられている。
 バイエルラインとグリルパルツァーの二人は、互いに顔を合わせた瞬間、どちらからともなく気まずそうに視線を逸らした。
 彼等はこの日の午前中、都内の某高級メンズエステサロンで、ばったり鉢合わせていた。供に、フェイシャルと脛毛と胸毛の脱毛コースを選択し、グリルパルツァーはオプションで睫パーマを付けるという念の入れようだった。
 午後7時の皇帝の行幸が近づくに連れ、客は更に増え始めていた。
『早く○の人達来てくれないかしら』
 エルフリーデが、友人達との約束を果たそうと待ち構えていると、執事が、ファーレンハイト、ビッテンフェルト両上級大将がお見えになったと告げに来た。
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