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エルフィーでハーレクインもどき書いてみる(4)
 ゲルラッハ亡き後、シャフハウゼン子爵邸に移ったエルフリーデは、残りの目的を達成すべく子爵に働きかけた。
 だが、シャフハウゼン子爵夫妻は、善良な分、ゲルラッハ以上にこの件に関して消極的で、エルフリーデを失望させた。
 ローエングラム公の姉君のグリューネワルト伯爵夫人に紹介して欲しい、宰相首席秘書官となった女学院の先輩でもあるマリーンドルフ伯爵令嬢に会わせて欲しいと、何度か頼んだが、子爵は困惑するばかりで、首を縦に振ってくれなかった。
 ならばローエングラム公に直接自分が面会に行くと言ってみたが、肝心の公は、首席秘書官を伴って出征中だった。
 明けて帝国歴490年に入ると、帝国軍は、制圧したフェザーンを足がかりに、一気に同盟領に攻め込んだ。銃後にあるオーディン市民に、前線の情報が齎されるのは、いつもかなり遅れてのことだったが、それでも2月にランテマリオ星域会戦、4月にはバーミリオン星域会戦に勝利し、5月初頭に遂に叛徒共の首都を制圧し、全面講和に漕ぎ着けたことを10日余りの時間差で知ることとなった。
 同盟との150年間に渡る不毛な戦いが、遂に終戦を迎えたのだ。
 この報に、帝国内は身分や派閥を越えて歓喜の渦に包まれた。
 そして、ローエングラム公がオーディンに凱旋すると同時に、女帝は帝位を譲って退位するというのが、早くも規定の事実として上流社会の人々の中で認識されていた。ローエングラム体制下で改革を進めていた文官達が、着々と下準備を進めていたのである。
 6月2日、ローエングラム公の艦隊は、オーディンに帰還すると、翌日には全閣僚を招集し、その席で同月20日に女帝の退位と、22日に新皇帝の即位式が執り行われ、新王朝がはじまることを正式に布告した。
 6月半ばに入ると、早くも新内閣の人事の噂が流れ出した。
 元々改革派官僚だった、ブラッケやリヒターの入閣は堅いとして、宰相首席秘書官であるマリーンドルフ伯爵令嬢が、そのまま皇帝首席秘書官に昇格し、その父親のマリーンドルフ伯までもが、閣僚の筆頭たる国務尚書に内定していると聞いて、旧勢力派は流石に驚いた。
「そうさ。新帝国になたっら、今度は我等マリーンドルフ一族の時代さ」
 そう言って久々にシャフハウゼン家を訪れたのは、エルフリーデの叔父に当たるエドアルド・フォン・ゴットルプ子爵である。今年、31歳になるこの男は、エルフリーデの唯一の血縁者として、法的な後見人でもあるが、エルフリーデはなぜか昔からこの叔父が好きになれなかった。本来なら他人のゲルラッハやシャフハウゼンよりも叔父の邸に引き取られるのが筋というものだが、先の爆破テロで、彼の邸も木っ端微塵となっていたので、仮住まいに姪を引き取る余裕はなかった。もっとも、エルフリーデが進んでゲルラッハ等の申し出を受け、叔父の家に行くのを暗に拒んだのを向こうも察していて強く奨めなかったという事情もあった。ちなみにゴットルプ子爵家は余程強運なのか、テロの時、子爵一家は友人の結婚式に招かれ、奇跡的に全員無事だった。
 それでも子爵は、ただ一人生き残った姪を心配してか、こうして時々様子を伺いにくる。この叔父は、エルフリーデの祖父である先代コールラウシュ伯爵が、平民の女中に産ませた庶子だったが、代々美貌の家系であるコールラウシュ家の人間らしく、端正な容姿に洗練された貴族らしい身のこなしをしていた。ただし、あまり勤勉とは言えない性格で、貴族の子弟のみが通う大学を6年かけて卒業し、最近まで職にも就いていなかった。祖父が亡くなると、人の良かったエルフリーデの父は、妾腹の弟の将来を案じ、身の立つようにしてやろうと考えた。そこで、馬主仲間で男子の世継ぎのいないゴットルプ子爵家との婿養子の話をまとめてやったのだ。子爵令嬢が、美貌の青年を一目で気に入ったのは言うまでもない。
「そういう叔父様は、もうすっかりマリーンドルフの一員ね」
 エルフリーデは、皮肉を込めて若い叔父を見やった。
「そう非難がましく言うものではないよ、エルフリーデ。こういう時代は、誰につくべきかを見極めるのも器量のうちなんだから。私はこの通り、官僚としての能力もないし、軍人になって大軍を指揮する才覚もないんだから、生き延びるには賢く立ち回るしかあるまい」
 開き直って言うエドアルドに、エルフリーデは益々嫌悪感を覚える。
 確かにこの叔父は、これといった才に恵まれているわけではないが、なぜか処世術に長けている。この混沌とした情勢の中を巧みに泳ぎ回り、今ではローエングラム政権の中で、宰相府の人事管理官という地位にちゃっかり就いてしまった。特に功績も失態もなく、無難に仕事をこなして高給を食んでいる。何よりも、一族が悉く忙殺されたり、粛清されたりする中で、彼が無傷で生き残っているだけでも才能と言えるかもしれない。このあたりの要領の良さは、生真面目なエルフリーデの父にはなかったものだ。エルフリーデは、叔父のそんなところを、半分平民の血が流れている故の卑しさだと思っていた。
「誇りでは生きていけないからね。ローエングラム公・・・・いや、もうすぐマイン・カイザーとなるあの方は、できれば自分に心から服従しない旧貴族を根絶やしにしたいのさ。あの方が即位すれば、いずれ何か理由をつけて、リヒテンラーデ一族は皆粛清される。ブラウンシュバイクやリッテンハイムについた貴族達のようにね。今に見ていろ、帝国貴族として生き残っているのは、皇帝の寵愛深いマリーンドルフ伯爵令嬢の一族と、グリューネワルト伯爵夫人の友人くらいなものになってるよ」
「そんなこと、絶対にさせないわ。お父様は、大叔父様が亡くなった時、ローエングラム公に忠誠を誓ったのよ。私だって、悔しかったけど、領地を半分も献上してるのよ。その上まだ私達から奪うというの?」
「ああ、ローエングラム公はそのつもりだろうね。現にゲルラッハはあの通りだ」
 それを出されては反論の言葉がない。
 ゲルラッハ伯爵は、領地の殆どを献上し、ひたすら身を謹んで恭順の意思を示したが、ローエングラム公はそれでも赦さなかった。
「私は叔父様とは違うわ。私は最後までリヒテンラーデ一族よ。絶対に家を滅びさせたりしない。私が必ず守るわ」
 エルフリーデは、そう言って青く輝く瞳で、叔父を睨み付けた。
 ゴットルプ子爵家は、元はカストロプ公爵家の一門だったが、カストロプ叛乱の際、養子である現当主は呼応せず、オーディンで兄であるコールラウシュ伯爵の庇護を求めた。当時まだ国務尚書として権勢を振るっていたリヒテンラーデの力もあり、乱鎮圧後も特に親族として罪に問われることもなく、以後はリヒテンラーデ一族の一員として遇されてきた。
 それが、リップシュタット戦役が終わり、ローエングラム体制になると、今度は公の信頼篤いマリーンドルフ家の縁戚として振舞うようになった。マリーンドルフ家もカストロプ公爵の一門であるから、確かに縁戚と言えないことはなかったが、この悪びれない変わり身の早さは、ブラウンシュバイク公の部下から、オーベルシュタイン総参謀長の副官となったフェルナー大佐に匹敵すると、文武両官から揶揄されていた。
「私だって何もリヒテンラーデ一族が滅びればいいとは思っていないよ。まして、コールラウシュ家は実家だからね。ただ、このご時世で、後ろ盾もなく、お前一人で家や一族を守っていくのは無理というものだ」
「では、どうするのがいいと? 叔父様はおっしゃるの?」
 エルフリーデは、初めて叔父の言葉に興味を持って、涼しげな鳶色の瞳を怪訝そうに覗き込んだ。
「それは、お前が、ローエングラム公にとって簡単に粛清などできない立場になることさ」
「どういうこと?」
「お前が、ローエングラム公自身か、公が信頼する政権中枢の人物の誰かと結婚するのさ」
「え?」
 思いもかけない提案に、エルフリーデは絶句した。
 結婚・・・・それは、エルフリーデにとって、エーリッヒ・フォン・ファルツのような身分や家柄のつり合った者とするべきものだった。そのエーリッヒが死んだ今となっては、結婚というものが、自分からは数億光年遠いものとなってしまった。まして、エーリッヒを処刑したローエングラム公やその部下となど考えただけでもおぞましい。
「いくら叔父様でも、お言葉が過ぎますわ。父と弟亡き今、私は300年続いたコールラウシュ家の当主です。典礼省の許可が下りれば正式に伯爵夫人(女伯爵)となる身よ。ついこの前まで下級貴族だったローエングラム公と結婚などできるわけがないでしょう。ましてやその部下の平民とだなんて・・・・!」
 激昂しそうになる気持ちを辛うじて抑えながら、エルフリーデは叔父に怒りをぶつけた。
「その典礼省とやらも、いつまであるのかどうか・・・・」
 ゴットルプ子爵は、手を左右に開いてお手上げのポーズをとりながら、その日はこれ以上気性の激しい姪のご機嫌を損ねないうちに退散した。
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