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イノセント・プリンセス(2)
 10月17日の朝、大本営内の一室に設けられたTIEG−36型感染拡大防止対策室に、ヘレーネが初出仕した。
 室長であるヒルダは、デスクの前に立って敬礼するヘレーネに、リンザーや3人の友人以外に新たに加わった対策室の他の5人のメンバーを紹介した。
 5名は、いずれも20〜30代の若手官僚で、それぞれ民政省の保険局から2名、軍務省から調査局長であるフェルナーの意を受けた局員2名、代理総督府の事務官で、現地の事情に詳しいという係官1名という内訳だった。
 他に、ここにはいないが、発見された感染者の収容施設の確保に、工部尚書の筆頭秘書官で、新帝都建設局参事官も兼ねる女性官僚が三足の草鞋を履いてその任に当たっているらしい。
 また、憲兵隊の一個大隊が専任で対策室の指示の下、現地調査と感染者の保護を行っており、軍病院内にも専任の医療チームが設けられて万全の体制を敷いていた。
 5名の男性官僚は、それぞれ年齢も出身階級もバラバラだったが、皆、人当たりが良く、新王朝下で要職に就いているだけあって、全員有能そうだった。
 ヘレーネは、まず、一番年長で、軍務省での階級も上であるクリューガー中佐に向かって敬礼し、型通りの任官の挨拶を済ませた。
 中佐は、サビーネの事件で、当然ヘレーネのことを知ってるようで、平民出であるフルネームを名乗ってから、「こちらこそ、よろしく頼む」と短く答えて、どことなく彼女を労わるような雰囲気を感じさせた。
 ヘレーネもそれを敏感に感じ取って、少し笑顔を作って応えた。
 もう一人の二十代半ばと思われる中尉と、若い方の民政省の役人は、どちらも同じリスナーという姓だった。帝国内では比較的よくある名字である。
 ただし、軍人の方が下級貴族であるのに対し、官僚の方は、「リスナー男爵」であるという。
 旧王朝初期から続く名門の門閥貴族らしいが、リップシュタット戦役にはどちらの陣営にも参戦せず、最終的にはマリーンドルフ家に取り成しを頼む形で、命脈を保った。
 順応性が高いのか、ヒルダ同様門閥貴族の傲岸さは微塵もなく、敬礼するヘレーネに涼しい笑顔で一礼した。
「このオフィスでは、フェザーン流に、お互いを姓や階級ではなく、ファーストネームで呼び合うことになっています。私のことは、ヒルダと呼んで下さい。あなたも早く慣れて下さいね。ヘレーネ」
 柔らかな微笑で言うヒルダの言葉に、ヘレーネは、内心で半分は「助かった」と思った。彼女はまだベアトリスをアデナウアー准尉だの、アンナのことをケンペル准尉などと呼ぶことに慣れない。
 ただ、逆にフロイライン・マリーンドルフをヒルダと呼び、上官であるクリューガー中佐をリヒャルトと呼ぶのが難しい。
「よろしく。シェリング准尉。いえ、ヘレーネ。私と彼が紛らわしいのが切っ掛けで、こういうことになったのです。ここでは、私のことは、カールと呼んで下さい。リスナー中尉のことは、フレッドと皆呼んでます」
 民政省の若手官僚が説明を加えた。
 中尉の方の本当の名前は、アルフレット・フォン・リスナーというのだそうだが、もう一人の彼等よりも少し年長に見える民政省官僚の名前が、今度はアルベルト・フォン・ケルトリングといって、また「アル」が被ることから、彼は「ベルト」という渾名で呼ばれているそうだ。彼も門閥貴族の出で、伯爵家の次男とのことだったが、こちらも偉ぶったところがない、温和な青年だった。
 もっとも、この時期に門閥貴族の権威を振りかざすのは、かえって自分の首を絞める行いであり、少し常識があれば、そんな愚行に及ぶ人間はいなかった。
 最後に、30歳前後に見える代理総督府のバッケスホーフ事務官を紹介されて一通りの顔合わせは終わった。彼の名前はアレクサンデルであり、「サーシャ」という定番の渾名は、アレクサンドラ・シェスタ―准尉と被る為、彼のことは、そのままアレクと呼ぶことになっているそうだ。
 当人もその親も爵位を持たないことから、下級貴族ということになっているが、正確には、父親は「フェザーンの白狐」と呼ばれ長年高等弁務官を務めたレムシャイド伯の弟で、門閥に連なる産まれだった。しかし、その血統も今となっては何の役にも立たないばかりか、かえって出世の妨げになりかねない。
 彼等だけでなく、お目こぼしで粛清を免れた門閥貴族の子弟たちで、公職に就いている者達は、この時期皆、押し並べて腰が低く、人当たりがいいのが特徴だった。
 ヒルダは、着任したばかりのヘレーネに彼女の担当業務を割り振ると、隣の会議室に全員を集め、今後の日程と、現在逮捕、起訴されている感染源でもある集団暴行殺害事件の容疑者達の取調べ経過を通達した。
「皆様の日頃のご尽力に感謝します。昨日も申し上げた通り、残念ながら、我々と司法省との間には、この事件に関して見解に大きな開きがあり、今後の思惑についても隔たりが存在することは、認めなければなりません。ですが、新王朝が、帝国をより良い方向に導いていくという最終目標は、一致しております。その過程に於いての相違を、今後どう埋めていくかが、我々の課題でもあります」
 ヒルダは、こう言って議題に入った。
 ヘレーネは、意外な展開に、暫し耳を澄ませた。
 リッテンハイム候の領地惑星で反乱を起した私兵達の内、存命の者で、現在フェザーンで逮捕、拘禁されて、起訴される見込みのものは35名。
 彼等は当初、全員容疑を否認した。
 領地惑星で反乱があったことは認めたものの、私兵から正規軍に組み入れられた時の人数の内、半数以上が、ランテマリオ星域会戦やバーミリオン会戦時に既に戦死していたのをいいことに、それぞれが自分は残虐行為に関わっていないと主張したのだった。
 フェザーンの先進的な裁判制度は、「疑わしきは罰せず」が大原則であり、容疑者の利益を守るのが基本方針だった。
 その為、彼らについた国選弁護人達は、いっせいに無罪を主張する構えでいた。
 しかし、それには、死人に口なしで罪を全て押しつけられそうになった、戦死した半数の遺族達が黙っていなかった。
 常識的に考えても、83名いた私兵達のうち、偶々残忍行為を働いた者だけが選定されたように戦死したなどという偶然は有り得ない。
 しかし、同時に、確率が低いからと言って、彼等全員を即座に極刑とすることもまた難しかった。
 そんな時、事件のあった元リッテンハイム候領に捜査に入った憲兵隊と警察が、サビーネを最初に診察した医師が、機転を利かせ、治療時に彼女の膣内から体液を採取し、保存していたことが判った。
 それにより、本人のもの以外に、少なくとも8種類のDNAを検出し、36型を発症して入院中の者と、逮捕者のものとの照合が行われた。
 その結果、オーディンで入院中の1名と、逮捕者の中の2名のものとDNA型が一致した。
 入院中の者は、末期症状で話が聴ける状態ではなかったが、逮捕された2名は、この事実を突き付けると、サビーネを襲ったことを認めた。
「俺が犯ったのは、4番目か5番目だったんだ。皆、隊長や副隊長には逆らえなかったし、あの時は、全員どうかしていたんだ!」
 暴行を認めた男達は、しきりに、「逆らえなかったんだ」という言葉を繰り返し、自分の立場では同調するしかなかったことを訴えているらしい。
 この時点では、大元の保菌者が、バーミリオン会戦で戦死している私兵部隊の元副隊長の一人であったことまでは判明していた。
 彼が真っ先にサビーネに襲い掛かり、サビーネを介して他の野獣と化した男達に伝染したという経路も推測できた。
 更に男達は、そのまま他の若い侍女達や下働きの女性も襲い、彼女等を媒介にして感染を拡大していった。
 逮捕者の中で、発症している者はいなかったが、35名の内、30名の感染が確認されている。
 まだ特効薬は開発されていないが、彼等には、類似の性感染症に有効な発症や進行を遅らせる薬を投与されているので、今のところ体調に異変はない。
 発症前か、初期段階でこの薬を投与すれば、延命が可能であり、数年後に見込まれる特効薬の開発にも間に合う可能性があった。
 容疑者達は、科学的証拠を突き付けられるに連れ、徐々に一部容疑を認める者が現れた。
「俺は、娘の方は犯ってないが、母親を隊長の次の次に犯ってやったさ。3番目さ。だから大して罪は重くないはずだ」
 と言って、悪びれずにクリスティーネを襲ったことを認める供述をする者もいた。
 更に、残虐行為の後、犯行現場から逃げ延びた元使用人の女性の何人かが重い口を開き、調査官に対して自分の身に起こったことは話し始めている。
「俺は、侯爵夫人親子には手は出していないが、女中を2人ばかり犯った」
 と、観念して供述した者もいる。
 あくまでも、暴行はしていないと言い張る男の銀行口座には、事件の直後に多額の入金があり、不審に思った取調官が問い詰めると、館内の宝飾品を奪って質入れしたことを認めた。
 こうして、逮捕者達は、殺人、窃盗、暴行、器物損壊などで、それぞれに対して容疑が固められ、全員起訴に漕ぎ着けた。
 ただし、証拠が少ないことが原因で、この内、罪状に殺人を適用できた者は僅か6名であり、この中にサビーネを襲った者達は含まれていなかった。
 ヘレーネは、資料として渡された電子ファイルを見ながら、体中の血が沸騰し、臓器が煮え滾るような感覚に必死に堪えていた。
 会議を進めるヒルダとて、それは十分に理解できた。
 軍部と民政省は、この事件の容疑者達全員に、極刑を要求していた。
 それによって、新王朝の清廉な性格を内外に知らしめるのと、厳罰化することにより、辺境地の治安の向上を目指したのだ。
 たとえ私兵とはいえ、無抵抗な者達への集団での略奪暴行行為を厳しく処断する方針を打ち出し、性感染症の拡大を抑え、民心の安定を図ろうというのが民政省の意図でもあった。
 これに対して、司法省は、あくまでも公正な裁判に拘った。
 今、ここでまた感情に任せた処断を行えば、時代は逆行してしまう。事件が起きた時、彼等は軍属ではなかった。だからこの件は、絶対に民間人の起した凶悪犯罪として、厳正な法の裁きに依って裁かれなければならない。国家として、それだけは、絶対に譲れない。
 法曹家達の主張もまた、充分に理のあるものであった。
 主席秘書官でもあるヒルダは、この件の進捗具合を皇帝に報告する度に、激昂するラインハルトを宥めなければならなかった。
 ヒルダとて、彼等全員を銃殺刑に処すことに、感情的には異論はなかった。
 だが、それはまた、再び旧王朝の暗黒時代に戻ることであり、リヒテンラーデ一族の悲劇の再現にも繋がる。
「我々は、起訴された容疑者達の処分については、裁判官と陪審員達の判断に委ねるしかありません。しかし、彼等とて私達と同じ感情を持った人間のはずです。後は、彼等の人間としての良心と良識に期待して、裁判を見守りましょう。我々対策室の人間は、引き続き、感染源の割り出しと、感染者の速やかな収容に精励します」
 そう言って会議を締め括ったヒルダだったが、電子ファイルに記載された容疑者達のデータに目を落としながら、蒼碧色の瞳に不安と困惑の色を滲ませた。
 主犯格の隊長と副隊長のデータは手元にないが、彼等に先導される形で残虐行為を働いて逮捕された35名の元私兵達は、誰も平凡そうな普通の男達で、一見して凶悪犯の面差しのある者は一人もいなかった。
 正規軍に組み入れられた後、問題行動を起こした者もおらず、同僚や上官の評価も概して悪くない。ごく普通に、真面目に職務を従事していたという。
 私生活に於いても、この2年の間に家庭を持った者もいるし、元々妻子がいる者もいた。経歴を見ても、前科はおろか補導歴すらない。全員身分は平民で、辺境星系出身のごく平凡な市民といったところだ。
 当初、ラインハルトと同じく彼等に強い嫌悪感を抱いていたヒルダも、今では、彼等も、もしリップシュタット戦役がなければ、リッテンハイム家の使用人としての生涯をまっとうしたのではないかと思っている。
 そう考える度、ヒルダは、人間の弱さというものに思い至らずにいられない。
 それは、ヒルダにとっても、大学時代の苦い思い出に繋がっており、同時に今の彼女の原点ともいうべき出来事だった。
 弁護団は、心理学者の見解を示し、彼等の行動を、極限の状況下でパニック状態になり、集団心理と相まって一時的に残忍な行為に走ってしまったもので、戦時下にはままあることだと主張した。また、私兵の中でも一兵卒だった彼等は、自分の身を守る為にも、上司に逆らうことができない状況だったと主張する弁護人もいた
 更にそれを以って、一種の心神耗弱状態にあったとし、減刑或いは無罪を訴えている。 正規軍に配されていた時の彼等の上官や同僚、家族の証言を集め、彼等が本来はいかに真面目で善良な普通の人々であったかという証拠として提出している。
 陪審員には、フェザーンの制度を尊重し、一人の裁判につき、無作為に選ばれた36名の成人一般市民が任に当たる。
 無作為と言っても、年齢、性別、職業、出身が偏らないように配慮され、それぞれのカテゴリの中から抽出される。
 選出された陪審員には、大学生もいれば老人もいるし、亡命している元帝国貴族から、同盟領出身のフェザーン人までいて幅広い。
 彼らが、被害者感情や遺族感情を考慮し、民意に沿った判決を下すのを祈るのみだが、弁護側の集めた資料を見ると、ヒルダはまた複雑な思いに駆られた。
「息子は優しい子です。周りに流されて、逆らえなかったんです」
 と訴える容疑者の両親の証言映像や、
「夫は、ずっと安い給料で、朝から晩までリッテンハイム家に仕えていました。侯爵も侯爵夫人も自分達は働きもせず贅沢三昧なのに…。リッテンハイム候は天罰で死にましたが、私の夫に罪があると言うなら、リッテンハイム候の恩恵を受けていた人達には罪がないんですか?」
 と涙ながらに論点がズレた弁護をする容疑者の妻の姿に、ヒルダは眉を顰めながら、人が人を裁くことの難しさを実感する。
 彼等のやってしまった結果を鑑みれば、どれほど裁判官や陪審員の同情を集めようと、全くの無罪放免という者はいないだろう。
 しかし、もし初期の段階でラインハルトが皇帝の権限を発動し、全員有無を言わさず銃殺刑に処されれば、永久に真実は明らかにならなかったかもしれない。
 ローエングラム王朝は、皇帝による専制政治と健全な司法制度を両立させなければならないと、ヒルダは考えていた。
 その為には、今回の司法省の方針は正しい。彼女の理性はそう頭で理解している。
 だが、一人の女性としてのヒルダには、どうしても感情的に許せないないものがあった。
 たった一人の肉親をこんな形で失った自分と同年代のヘレーネや、生前面識がなかったとはいえ、同じ門閥貴族令嬢のサビーネについ感情移入してしまう。
 しかし、誰よりもこの手の犯罪行為を毛嫌いし、この事件に関して激発しそうな皇帝の傍にあって、側近の一人である自分までもが感情的に考えてしまっては、彼等を公正に裁くことができなくなってしまう。
 ヒルダはそう考えて、自分の本心とは逆に、皇帝が超法規的措置を発動しようとするのを抑える役目を買って出たのだった。
『難しいものね…人を統べ、国を治るということは…』
 その日も、最後までオフィスに残り、残務処理をしていたヒルダは、窓に煌くフェザーンの夜景を美しい蒼碧の瞳に映しながら呟いた。



「アル、私、もう我慢できないの」
 我慢できないのは俺の方だと言いたいのをぐっと堪えて、3日ぶりに部屋を訪ねた男は、張り付いた笑顔を作った。
「どうしたのです? リザ」
 口先だけ穏やかに尋ねる男に、女は、またあの甘えた声でにじり寄る。
「今、ソリヴィジョンでニュースを見たの。驚いたわ。コールラウシュ伯の娘が、私よりも立派なところに住んでいるのよ。こんな間違いがあっていいの? おまけに、今はマリーンドルフとかいう聞いたこともない貴族が国務尚書で、その娘が、男みたいな恰好をしていて、皇帝の第一の寵姫らしいわ。いったいこの帝国はどうなってしまったのかしら?」
 普段は良くも悪くもおっとりとして、どちらかと言えば物静かなタイプ(トロいとも言える)な女が、珍しく声を張り上げていた。
 男は、フロイライン・マリーンドルフは寵姫ではありませんよと言おうとしてやめた。どうせこのクリームバター頭の女には、皇帝主席秘書官の仕事など理解できようはずもない。
 この娘には何もわかっていない。
 自分は官舎となっているホテルの狭いシングルルームで暮らしながら、この超高級コンドミニアムを借りるのがどれほどの負担なのか、この女には理解できないのだ。
 この女と世話をする老婦人の2人で暮らすには広すぎるこの部屋でさえ不満を訴える女を、怒りを抑えながら男は軽く抱き締めた。
「来週まで待って下さいリザ。今、兄に頼んでこちらの銀行へ邸を購入する資金の送金を頼んでいるところですから」
 勿論、そんなのは嘘だ。第一、男の実家は、新王朝に代わってから、財産と領地の殆どを国家に返納してしまい、手元に余分な金などない。お情けで僅かに残してもらった荘園からの収入も、オーディン都内の邸の維持費で精一杯といった有様だ。
 別にこれは彼の家に限ったことでなく、今や殆どの門閥貴族が同じようなものだ。
 下手に資産を持ち、贅沢をしたりすれば、それが叛意の証とでっち上げられ、憲兵隊か内国安全保障局あたりの格好のターゲットになってしまう。
 実際には、新王朝は、既に力を失くしている門閥貴族達に対し、そこまで極端な恐怖政治を施いてはいなかったが、男を含め多くの生き残った貴族達はそう信じていた。
 だからこそ、皆、自ら進んで財産を手放したのだ。
 この女の始末を急がなければならない。
 自分の犯行の証拠を残さず、同時に、自分とこの女との関係を知る人間も一緒にヴァルハラに送る。そうしなければ、気が休まらない。ここフェザーンで自分達の関係を知る者は僅かだ。絶対上手くいく。いや、上手くやってみせる。でなければ、俺の人生が開けない。
 闇ルートで調達したゼッフル粒子は、必要分揃えた。
 後は時限装置を仕掛けるだけだ。
「来週の22日が公休日ですから、また来ます。その時は、昼食を摂りながら、一緒に物件探しをしましょう。フェザーンには、豪商たちが手放した宮殿にも劣らない豪邸が、まだまだたくさんありますから、あなたに相応しい邸も必ず見つかりますよ」
 一時は仮皇宮にも検討された程のロイエンタール元帥宿舎の凌ぐ規模や豪華さの邸など、余程郊外にでも出ない限りありはしない。あったとしても、今の男にそれを購入する金などなかった。
「ほんと? コールラウシュ家の娘の邸よりも広くて立派でなくてはダメよ」
「もちろんですとも。だから、来週22日は、必ず部屋で待っていて下さい」
「ええ、わかったわ。アル」
 単純な女は、すぐに信じたらしい。
 男は、女の肩越しにキラリと蒼い瞳を光らせながら、密かに決行日を定めた。



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ゲスト出演の対策室出向新メンバー5人の覚書(犯人候補者?)

■リヒャルト・クリューガー
31歳。軍務省調査局局員。中佐。フェルナーの信頼する部下。通称リヒャルト。

■カール・フォン・リスナー
26歳。民政省保険局管理官。男爵。帝国大学を出て官吏登用試験に優秀な成績で合格した将来有望な若手官僚。通称カール。

■アルフレット・フォン・リスナー
24歳。下級貴族。軍務省調査局局員。中尉。将来有望な軍官僚。通称フレッド。

■アルベルト・フォン・ケルトリング
28歳。リスナーの先輩に当たる民政省の官僚。旧王朝では代々軍人を輩出してきた一族だったが、自分の適性と将来を見越して当人は敢えて軍人の道を選ばなかった。親族であるミュッケンベルガー退役元帥の助言に従って、リップシュタット戦役に参戦せず、家門の安泰を図った。通称ベルト。

■アレクサンデル・フォン・バッケスホーフ
30歳。下級貴族出身。代理総督府の事務官。通称アレク。
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