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ハーレクインもどき −番外編(1)−
「ねえ、エルフィー、私達、ずっとお友達よね?」
「私もよね?」
「私だって・・・」
 左右の手をしっかり顔の前で組みながら、うるうるとした目で「お願い」のポーズをとる級友達に、エルフリーデは思わず後ずさった。
「も、もちろんよ。どうしたの?みんな」
 電撃結婚から一ヶ月余り。新しい生活にも漸く慣れた頃、女学院のクラスメイト5人がロイエンタール邸を訪れた。
 理事会の思惑で、卒業式への出席を拒否されたエルフリーデにとって、同級生との再会は素直に嬉しかったが、型通りの結婚祝いの口上を述べた後、先を急ぐように彼女達の口から出たのが前述の言葉だった。
「実は・・・・」
 と、一人の少女が意を決したように顔を上げた。
「ファーレンハイト提督を私達に紹介して頂きたいの」
「え?」
 一瞬、事態が呑み込めなかったエルフリーデだったが、友人達の真剣な眼差しに、すぐさま彼女達の訪問理由を察した。
「私達、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト上級大将をお慕いしている同志なの。誰が選ばれても恨みっこなしで祝福するって誓ってるわ。だからお願い。今度サロンを開く時、呼んで頂きたいの」
 級友達の必死の形相に、エルフリーデも反射的に力になれるものならと思い、懸命に記憶を辿った。
 婚儀の場で、次々と引き合わされる軍首脳や閣僚達の顔が過ぎる。その中で、ひと際端正な美貌の将官を思い出した。乙女心を擽るプラチナブロントの髪に色素の薄い水色の瞳、一見細身だが、歴戦の勇者を思わせる強靭な肉体を黒い軍服の下に隠していることを窺わせる男の姿がくっきりと浮かび上がった。
 確か年齢はロイエンタールよりも2、3歳年上だと聞いたが、婚儀には夫人を同伴していなかったところをみると一応独身ではあるらしい。
 速攻に強い攻撃型の用兵家だとの噂だが、エルフリーデ達への対応は、非の打ち所のない礼に適ったもので、貴公子然とした、柔らかな物腰が印象的だった。
 ただし、握手を交わしながらのロイエンタールとの会話の記憶を手繰り寄せると、目の前の同級生達の旗色は芳しくないように思える。
「まさか、この俺が卿より先に結婚とはな。皇帝陛下即位後の最初の慶事は、てっきり卿の結婚だと思っていたのだが」
 少し自嘲気味のロイエンタールに対し、ファーレンハイトは穏やかに応えた。
「私は元々急ぐつもりはありません。まあ、あまりにも付き合いが長いと、ついいつでもという気持ちになってしまって。向こうにも仕事がありますし。でも、そろそろ考えなければと思っておりますので、その時はぜひご夫妻でご列席下さい」
 二人はもう一度軽く握手を交わし、エルフリーデは目礼すると、すぐ隣のミュラー提督へと歩みを進めた。
 ロイエンタールとの会話を総合すると、どうやらファーレンハイト提督には、長年付き合って、結婚を考えている多分、年齢の近い大人の女性の恋人がいるのだろう。そのことを遠慮がちに5人に伝えると、そのくらいでは若い無謀さは揺るがなかったばかりか、かえって火をつけてしまったようだ。
「あれだけ素敵な方ですもの、恋人がいて当然よ」
「そうよ。それに長く付き合ってるなら、もうオバサンじゃない。私の若さで・・・」
「抜け駆けはダメよ!私達、みんなでフェアな戦いをするって決めたじゃない」
「あら、そういうあなたこそ、この前まで自分だけ遠縁の財務尚書に頼もうとしてたじゃない」
 ファーレンハイト提督が、仮に今の恋人と別れたとしても、必ずしもあなた達の誰かと付き合うとは限らないわと、エルフリーデは思ったが、果てしない妄想を繰り広げる友人達の勢いに呑まれて言葉が出なかった。
「恋人がいるのはともかく、ファーレンハイト提督は私達よりずっと年上で、下級貴族よ。」
 辛うじてそれだけ言うと、5人から一斉に猛反論を浴びせられた。
「何を言っているの!?エルフィー!もうゴールデンバウム王朝の階級制度はなくなったのよ」
「そうよ。大切なのは、今なのよ」
「私、本音を言うと、家柄だけが取り得の大貴族のバカ息子なんかと結婚させられなくてよかったって思ってるの」
「私もだわ。同年代の貴族の男の子なんて頼りなくて。その点、アーダルベルト様は、実力で今の地位に就かれたのよ」
「エルフィーだって、ロイエンタール元帥のことを好きになったから結婚したんでしょ?」
 事実はともかく、世間では、二人は皇帝即位式の後のパーティーで互いに一目惚れし、一刻も早く一緒になりたくて、交際期間僅か二週間というスピードの大恋愛の末の結婚と思われていた。
「それに、大人の男性の方が経験も豊富だし・・・」
「きゃあ、あなた、何を想像してるの?」
「え?私は別に・・・・。あなたこそ、何を考えてるのよ」
 最早少女達の妄想は止まらない。
「ねえ、エルフィー、どう?結婚生活は?」
「えっ・・?」
 突然、水を向けられ、エルフリーデは狽えた。
「あれって、やっぱり、ソリビジョンドラマでやってるのと同じなの?」
 一人が耳元で小声で囁いた。
 途端、エルフリーデは耳まで真っ赤になる。
 その様子が、妄想乙女達の想像力を益々刺激してしまったらしい。
 少女達の瞳は爛々と輝き、数秒の間、次なる質問を考えるために、脳細胞をフル稼働させている。
『冗談じゃないわ、あの男とのあんなことを、誰が話せるものですか』
 エルフリーデは、何とかしてこの話題を遮断したかった。
「わかったわ。近日中に、みんなを招待して夜会を開きましょう。ファーレンハイト提督にもご出席をお願いしてみます」
「わぁ!」と、級友達は歓声を上げ、先ほどの件をすっかり忘れたように、話題は何を着ていこうかというのに移った。
 エルフリーデは、ほっと胸を撫で下ろし、夜会の段取りに思考を巡らせた。
 旧社会では、サロンを主催し、パーティーで立派にホステス役を務められてはじめて一人前の貴婦人という不文律が存在した。
『こうなったら、伯爵夫人として立派な夜会にしなくちゃ。もちろん、あの男にも手伝わせるわ』
 エルフリーデは、友人達を見送ると、早速招待客リストの作成を考え始めた。
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